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2018年2月28日 (水)

禁断の言葉(超短編)

 彼女は猫舌でもないのに熱い飲み物を口にしない。定食のみそ汁だって冷め切るのを待って一番最後に手をのばす。

思慮深い彼女は、日々たくさんの言葉を飲み込んでいる。それらはのどの奥に詰まっていて、熱いものを飲むと熱で溶け彼女の意思に関係なくポロっと出てきてしまうのだ。

 僕は一度だけそれを聞いたことがある。

いつまでも電車が来ない真冬のホームで、雪まじりの風に身をすくめながらベンチで飲んだ自販機のホットコーヒー。甘い熱でゆるんだ言葉が白い息と一緒に彼女からこぼれ落ちた。いつもより少し低めの、寝言のような不確かな声。聞き間違いかと僕が顔を上げると、彼女が一番びっくりしていた。ゆっくりと見開かれた目を見て、僕が聞いてはいけない言葉だったのだと分かった。

だけどもう一度だけ聞きたくて、僕はあの手この手で温かいものを飲ませようとするけれど、あの日、耳まで真っ赤にしてうつむいた彼女は、絶対に同じ失敗をしない。

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