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2018年3月

2018年3月21日 (水)

ある事象について(超短編)

 空き地の真ん中に、巨大な水晶が隆起してきた。

 ある人は世界中の悲しみが結晶化したものだと言い、ある人はみんなの祈りが具現化したものだと言う。

 水晶柱は、氷がきしむような音を立てながら日々成長し、枝を伸ばし、ビル程の高さの立派な樹になった。透明なその肌に夕日が乱反射して温かく輝き、夜にはささやかな星の光を増幅させた。

 誰かが、これは世界樹だと言った。

 各地から一目見ようとたくさんの人がやってきた。触れれば特別な力が宿ると信じる者たちもいた。死者の蘇生や、不老不死、世界平和など、ありとあらゆる願いがこの水晶樹に託され、いまだ成長を続けるそれは鏡のようにその者たちを表面に映しこんだ。

 何十年もの時間をかけ、水晶樹は空をふさぎ、地面も覆い、ひとつの町を飲み込んだ。

 まるで琥珀の中の羽虫のように時を止めた町を内包したまま、数多の祈りも願いも関係なく、水晶はただ成長を続ける。

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